2011年1月20日(木) 第1回理事長対談

 

今回の 理事長対談ゲストは札幌市豊平区に研究施設を構える独立行政法人産業技術総合研究所メタンハイドレート研究センターセンター長 成田 英夫氏です。

成田研究センター長は、メタンハイドレート資源の生産手法の研究について、平成22年度文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞されています。今回は未来のエネルギー資源となりうるメタンハイドレートの可能性と明るい豊かな社会についてお話しいただきました。



北嶋理事長
メタンハイドレートというエネルギーについて簡単にお聞かせいただけますでしょうか。

 

成田センター長
日本は、世界でもたくさんのエネルギーを消費している国です。それらのエネルギーのもとの多くが「化石燃料」と呼ばれる石油や石炭で、そのほとんどを海外からの輸入に頼っている状況です。しかし、「化石燃料」は、燃やすと地球温暖化の原因のひとつである二酸化炭素を排出します。現在、日本では海外からの輸入をなるべく少なくすべく、更には二酸化炭素の排出が少ない、新しいエネルギーの研究・開発が進められています。
植物などから作るバイオマスエネルギーや太陽光を利用したソーラー発電、大きな風車を使用した風力発電、水素と酸素から電気を生み出す燃料電池など、日本でも二酸化炭素の排出が少ないクリーンな新しいエネルギーが次々と登場しています。それらと並び日本のエネルギー問題の解決に期待されているのが、メタンハイドレートです。  
メタンハイドレートは、海底下の地層中の有機物から生成したメタンと水からできており、一見すると氷のようです。その固体は大量のメタンを含んでいるため、勢いよく燃えて最後は水が残ります。そのため、メタンハイドレートは「燃える氷」と言われております。
温度が低く、高い圧力の環境でしか固体の状態を保つことができないため、水深500メートルより深い海底や、永久凍土層の地下数百メートルにしか存在しません。温度が高かったり、圧力が低かったりするとメタンハイドレートは融けだしてメタンと水に分解してしまうのです。
日本周辺では、東海沖から四国、九州宮崎沖の深海や、下北半島の沖合、富山湾にたくさんのメタンハイドレートがあると考えられ、全世界でも多くの賦存量が見込まれています。
メタンは発電や都市ガスに使われる天然ガスの主成分で、天然ガスは石油や石炭を燃焼させた場合に比べて、二酸化炭素の排出が約6割から8割、硫黄酸化物はほとんど排出しません。天然ガスの使用量は年々増えていますが、そのほとんどが海外から輸入されています。しかし、日本周辺の海底には年間の天然ガス使用量の100年分以上に相当するメタンハイドレートが分布しているとも言われており、それが利用できれば、日本も大量のエネルギーを自国で生産できると期待されています。
メタンハイドレートの開発については、経済産業省によって生産方法の開発や環境への影響、日本周辺にどれくらい埋まっているかの調査・研究などが日々されております。日本が自国の資源を多く確保できるかもしれないメタンハイドレートの研究は近い将来のエネルギー源として大きな期待が寄せられています。しかし、それには解決しなければならない問題もいくつかあります。

 

北嶋理事長
解決しなければならない問題とは具体的にどのような内容でしょうか。

成田センター長
まず、メタンハイドレートをどのように回収するかです。メタンハイドレートは、深海の海底下数百メートルにある砂層の砂と砂の間に氷のように存在しているため、石炭のように掘ったり、天然ガスや石油のように掘って出てきたものを容易に回収することができません。海底下にあるメタンハイドレートの温度や圧力を調整することでメタンと水に分解し、メタンガスを回収する方法が研究されています。また、分解後に出る大量の水をどうするか、周辺海域への影響を与えないようにするにはどうするかなどの問題もあります。

北嶋理事長
先程、海底下数百メートルにあるとのご説明をいただきましたが、日本海側には海底面に露出したメタンハドレートが存在すると聞いたことがあります。なぜ日本海側での採掘に着手しないのでしょうか。

成田センター長
まず、日本海側の海域にどのくらいの量が存在しているかが分かっておりません。しかも、露出しているメタンハイドレートを採掘するためには、ある程度事業ベースに乗らなければ開発が進められません。なぜかと言うと固体であるメタンハイドレート自体は体積で比較すると石炭よりもカロリーが少ないのです。そのため、ガスとして気化させたほうが回収効率が良いのです。しかも、海底下からの採掘であれば現状の石油開発技術がそのまま使えますので全く新たな投資の必要がありません。それと露出しているメタンハイドレートを採掘するとしても水よりも軽いので勝手に浮き上がってしまい、圧力が低くなった結果、分解してガスとなり、大気中に放出されることも想定されるのです。

北嶋理事長
海底下でガスにする方法ですが現在の技術では可能なのでしょうか。

成田センター長
日本の技術では可能なところまで来ております。

北嶋理事長
そうすればメタンハイドレートを日本が自国で採掘し、利用できる可能性は大いにありますよね。もっと国民にメタンハイドレートというエネルギーの情報を発信して、他国に負けないよう国を挙げて取り組めば日本がいち早く生産できるのではないでしょうか。

成田センター長
国が補助金を出したり組合を作ったりする方法もあるかもしれませんが、基本的には民間が主体となってやっていけるレベルまでの技術整備を我々がしなければならないのではないかと思います。

北嶋理事長
しかし、メタンハイドレートの研究を中国や韓国は国を挙げて取り組んでいますよね。

成田センター長
そうですね。確かに中国や韓国は研究開発段階から国が多くの資金を出しています。ですから商業化ベースに乗るまで国の政策や誘導はあると思います。日本でも経済産業省が「メタンハイドレート開発促進事業」を実施しており、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と我々産業技術総合研究所が研究コンソーシアムを組んで研究開発を実施しているところです。現段階では日本の海域にエネルギー資源があって確実に取れるという技術整備をしておけばエネルギー外交上も非常に有利になると思います。

北嶋理事長
メタンハイドレートの研究開発はエネルギー資源が無い日本にとっては重要なプロジェクトだと思うのですがなぜ声高に発信しないのでしょうか。

成田センター長
ご指摘の通り重要なプロジェクトであり、社会への発信のため、メタンハイドレート研究アライアンス事業という活動を行っています。これは、社会に対する情報発信の一環として、サイエンスコミュニケーションや出前講座、実験教室の開催等を行っており、徐々に理解が深まっている気がいたします。

北嶋理事長
日本の周辺海域に多くのメタンハイドレートがあることは確認できていますし、研究開発は日本が先進しているということは他国に頼らずに採掘できるのですよね。

成田センター長
我々としては現時点では特に技術的に連携する必要は無いと考えていますが、大水深の石油開発などに経験のあるアメリカなどの有用な技術やノウハウは取り入れていきたいと思いワす。このために戦略的に海外との連携を模索しているところです。

北嶋理事長
日本のメタンハイドレートの研究開発や技術は他国に提供を行うこともあるのですか。

成田センター長
結果的に我々が開発した生産シミュレータや海底地層の変形シミュレータは戦略的に開示することはあると思います。培ったノウハウはナショナルセキュリティに関係する問題ですから積極的な開示は行いません。ギブアンドテイクで日本の為になることが見返りとしてあるのであれば技術提供もあると思います。

 

北嶋理事長
今後、世界に誇れる日本であるために国産のエネルギーは重要な課題となりますが、成田センター長が構想しているメタンハイドレートの将来的な実用化はいつごろになる予定ですか。

成田センター長
先程もご説明させていただきましたが、メタンハイドレートは日本海域に多量にあることは確認できております。しかし、どこにどのくらい経済的に生産できるかという明確な数字は未だありませんので石油会社などの企業も様子を伺っている状態なのです。我々が研究を推し進めて効率的な生産方式を開発して事業者に提示できれば商業化も早くなると思います。これまでの日本のメタンハイドレートの研究に於いて段階的な調査を実施いたしました。フェイズ1では我々が開発した減圧法という生産技術で連続的に採取できることが証明されました。現在進行しているフェイズ2では日本周辺の海域で実際にメタンハイドレートからメタンガスを回収する実証試験が計画されています。フェイズ3では、100%国の予算で成り立っている研究開発費を石油開発業者などの民間企業も巻き込んで共同開発をしていくということになれば、2030年ごろには実用化が可能かもしれません。

北嶋理事長
エネルギー資源が少ない日本が自国の新しいエネルギー資源として注目されているのがメタンハイドレート。この国が実施しているプロジェクトに様々な企業を巻き込んで共存共栄するのが理想的ですね。今後、研究が進んで20年後、30年後には化石燃料に代わりメタンハイドレートが企業や家庭のエネルギー源として活躍していることを考えると、私自身とてもワクワクします。まさに明るい豊かな未来のための研究であると思います。研究に於いて成田センター長が最も重要に考えていることは何でしょうか。

 


成田センター長
メタンハイドレートの研究に限りませんが、全てに於いて熱意や情熱といったマインドが重要だと考えます。今の日本はシュリンク(縮むこと)している気がしてたまりません。日本全体にエネルギーが無く、強いマインドが感じられません。政治のせいなのか国民意識の問題なのかはわかりませんが…今回のリーマンショック以降の日本のエネルギーの消費量は10%ほど落ち込んでいます。世界各国もエネルギー消費量が落ち込んではいますが、せいぜい3~5%くらいです。つまり日本だけが急激に落ちています。景気が悪くなって経済活動が停滞していることによってエネルギー消費を抑えています。つまり景気とエネルギー消費は連動しているのです。

北嶋理事長
そうですね。不景気と言って財布の紐を締めてお金を使わなくなっていますから、その状態はどんどん悪化してしまいます。循環するお金と停滞するお金では全く意味が違います。日本人はもともと元気なマインドを持っているので、今こそ政府に元気マインドが奮い立つような明るいビジョンを打ち立ててほしいですよね。

北嶋理事長
成田センター長が考える北海道の可能性とはどういったところにあるでしょうか。

成田センター長
私は経済産業省の研究所で研究してまいりました。ですから大学の研究者というよりは日本の経済を考えつつ、日本のエネルギーについて研究してまいりました。先程もお話しましたがエネルギーというのは景気に反映します。景気が良いとエネルギーの消費が多く、景気が悪いとエネルギー消費が少ない。特に北海道の場合は天然ガスの消費の割合が非常に低いのです。これは冬季の暖房は化石燃料である灯油でまかなっていることが要因でありますが、北海道は炭鉱からはメタンが出ていますし、酪農や農業が盛んですからバイオガスなどの天然ガスに恵まれている地域なのです。北海道独自のパイプ宴Cンを作ったり、より安価に天然ガスを供給できる仕組みを確立するのも地球環境のためには良いことだと思いますし、北海道にはまだまだ新たな産業ができる土壌があると思います。北海道には広大な敷地がありますので農業とエネルギー産業のタイアップ事業も面白いのではないでしょうか。10年、20年先を見据えた農業のあり方、エネルギーのあり方を今こそ考えていくべきだと思います。

北嶋理事長
私も10年、20年後の札幌、北海道、日本はどうあるべきかという先見性が重要だと思います。食料やエネルギーに関しては特に先を見据えて考えなければならない。日本はエネルギー資源の大半を他国に依存しており、特に石油に関しては中東からの輸入に頼るしかありません。日本に何かあったらエネルギーが無い状況も考えられるからこそ、メタンハイドレートをはじめ次世代のエネルギーの研究は国を挙げて推し進めていかなければならないと思います。

成田センター長
これから世の中はどんどん変化していきます。政治や経済が不安定だからこそ未来を創る青年たちの倫理観が大事だと思います。昨今、世の中では若い年代の元気が無いと言われています。しかし、我々の時代と価値観や生活の様式が違います。この研究所にも若い研究者が沢山おりますが、一見おとなしそうに見えてもしっかり自分の夢や理想に向かって研究に励んでいます。札幌青年会議所の皆様も明るい豊かなまちづくりというテーマに向かって活動していると伺いました。そこで発揮されるエネルギーは数字では計ることのできない強いパワーを持っています。夢や理想に向かって突き進む行動力や青年ならではの柔軟な発想を持った皆様に期待しております。

 

 

 

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